新しい趣味との出会い

昔、ピアノを習いに先生のお宅に週に一度伺っていた。先生のお家に伺うといつも身が引き締まり、とてもエレガントな感じの雰囲気で本当に先生はここで生活をしているのかと思うくらい華やかで素敵なお家だった。ある時レッスンが終わってからお手洗いを済ませたくなったので、トイレをお借りしたことがあった。そのトイレの手洗い場に、石鹸なのに綺麗な花びらの彫刻のようなものがあった。この石鹸は使ってよいものなのかわからず、ただ見とれていたのを覚えている。結局、初めて見た代物を使うことはできず、そのまま手を洗うだけトイレから立ち去ったのだが、後から聞いたらやはりあれは単なる芳香剤としての飾りで、使ってはいけないものだと言われた。小さいながらにあのお花の石鹸を使わなくてよかったとほっとした記憶がある。
当時、主婦の間で流行っていた趣味だったのか、それともあの石鹸が市場に出て流行りの品だったのかはわからないが、その後、友達の家に遊びに行った時にも同じようなお花の石鹸をみつけた。ピアノの先生のお宅で見たものよりはかなり細かく作られているものだった。そしてある時、学校からの帰宅後玄関にあのピアノの先生のお宅にあったお花の石鹸があった。母にこれはどうしたのかと尋ねると、ピアノの先生からいただいたのだと話していた。私があまりにも興味がありそうに見えたらしくプレゼントしてくれたそうだ。
石鹸と言ったら、四角いものか丸い物しか見てこなかったので、まさか石鹸を使って彫刻をするなんて。と小さいながらに感心していた。
あれから年月が経ってしまったが、最近友達の家に招かれた時に、久しぶりにあのお花の石鹸を目にすることができた。懐かしいと思いながらもよく見てみるとやはり綺麗なので見入ってしまった。すると友達に、私、最近ソープカービングにハマっているんだ。と言われた。ソープカービング?初めて聞く名前だがこのお花の石鹸のことを言うらしい。しかも友達はハマりすぎて最近では公民館などでたまにソープカービング教室とやらを開いているらしかった。私が興味がありそうに見えたのか、今までの彼女が手掛けたソープカービングの作品を写真に収めたアルバムを見せてくれた。私が知っていたのは、お花だけだったが、他にも果物、動物、野菜などあらゆるものが石鹸を使って彫刻ができるらしく、その作品に圧巻であった。しかも、細かい部分は相当細かく本物のように見えた。そもそもソープカービングはタイの伝統工芸であるらしく、歴史は700年もあると言われている。もとはホテルのシェフが宮廷料理のために野菜や果物に装飾する技術が元になっていて、それを長持ちできる石鹸に用いたのがソープカービングということだ。木に彫刻するのとは違って、彫刻刀を使うというよりは、ナイフを用いて作ることができるらしい。しかもナイフの種類も必要なく、一本でできるという手軽さがまた主婦にうけているということだ。私は知らなかったのだが最近流行りの趣味ということだった。このソープカービング、よく見ると精工に作られており、少し間違ったらわれてしまうのではないかと思うくらいだった。インテリアとして扱われたり、そして香りもあるので贈り物などにも適していると話していた。見た目は華やかで細かい部分が難しそうに見えるが、思った以上に簡単に作れるので人気があるらしい。「もし体験してみたいなら一度来てみたら?」と誘ってくれたので、一度行ってみることにした。友達は住まいから少し離れた場所の公民館で教室を行っていた。生徒数は約8人程度。みなさん開講当初からいらっしゃるという。年齢的には、自分と同じくらいの人が3人ほど。他の人は少し年上くらいで、皆さん似たような年齢の人ばかりだった。今回、私は体験なのでナイフなど、必要なものは一式貸してくれた。石鹸は楕円の形をしているもので、フルーツ石鹸と呼ばれる色とりどりのものだった。「石鹸は何色がよい?」と聞かれたのだが、よくわからない。作る物にもよるのではないかと思ったが、とりあえず、色が綺麗な水色の石鹸を選んでみた。他に竹串、ペットボトルのキャップ、化粧ブラシ、マニキュアのトップコートがテーブルに並んでいた。竹串は下絵を使う時にしるしをするためのもので、ペットボトルのキャップに関しては模様をつけるためのもの、化粧ブラシは石鹸を削ったカスを払うために使う。それからトップコートは完成したものの表面をコーティングするためのものだと話していた。それからナイフはカービング専用のナイフ。まずはナイフの持ち方から始まる。あまり目にしない珍しい形のナイフだった。最初に、いきなり作り出すには難しいので試しに彫り方を教わった。直線や曲線などを彫ってみる。ナイフの刺し方、入れ方、角度により仕上がりが変わる。私は力があるのか、初めて触れるものにちからが入りすぎていたらしく、何度か「そこまで深く彫らなくていいよ」と言われていた。最初は思うように彫れなかったのだが、何度か練習していくうちにコツを覚えた。その後、ギザギザに彫ってみる。そのうちなんとなく力の入れ具合が身についてきたのか、そんなに力を入れなくても彫れるようになり、彫っている感触がなんとなく心地よい。しかも石鹸の香りが気持ちを落ち着かせてくれる。
ある程度、彫り方や力の入れ具合を確認した後に、今回は体験ということで、デザインが平面的なものということで見た目もかわいいバラの花を石鹸で彫るようだ。見本を見るとこんなもの、とても初心者が彫れる物とは思えないのだが、先生の言うとおりに頑張ってみることにした。先程自分で選んだ水色の石鹸に竹串で下絵を描いてみる。下絵も先生の言われた通りに描いてみた。その後、手に持って花心になる場所に円を彫る。この円がおかしな形になってしまったり、小さ目になってしまうと後にかなり細かくなってしまうようだ。彫りすぎたり、薄くなりすぎて割れるような感じはしないのだが、やはり手馴れていないので慎重になってしまう。それから中心部分から外側に向かって細かく花びらを彫っていく。ナイフの向け方によって表情が変わるので面白みがわかってきた。
最初は見た目の繊細さに圧倒されて、本当に自分自身で作ることができるのか不安だったが、完成品を見てみるとなんとも達成感があり、それなりにできているではないか。しかも見た目が本当に華やかで綺麗なので、うちの母と同様、玄関に飾りたいと言う気持ちになった。それから、何かに集中できる自分に久しぶりに会った気がした。日々の生活に追われて、一つのことに時間をかけて打ち込むようなことが生活の中にはない。1つのことに打ち込んでいる時こそ、無心になり、そしてストレスも発散できているのだ。しかも出来上がりも失敗することなくそれなりに形となった。休憩の時に、教室に通う方々と話す機会があったのだが、皆さんソープカービングの虜になっているようだ。だいたい二時間くらいだが、綺麗な形のものを思ったよりも簡単に作れることが魅力の一つだと話していた。しかも彫り終わった後の達成感はやはり何物にも代えがたいということだ。これは私自身も同じだった。そして、一つのものに集中できることが、こんなにも心地よいものだと久しぶりに味わう感覚だ。最後にカスで出た石鹸の利用方法まで教えてもらった。ポットに入れて芳香剤代わりに使用してもよいし、ネットに入れて使うこともできる。今回作った作品も時間が経っても石鹸として十分使えるようだ。来たときには考えもしなかったが、また新しい作品を作りたくなった。

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このブログの監修者

木林 充尚

1980年静岡県生まれ。浜松医科大学卒業後、美容整形外科を中心に、様々な医療現場を渡り歩く。医師時代に培った経験を活かし、医療脱毛、育毛、ダイエット、スキンケアなどの記事監修を手掛ける。現日本医療脱毛安全医科学会理事、発毛先端医療研究会副会長、日本肥満健康医学会名誉会員など。様々な分野で日々研鑽を欠かさない姿は医師の鑑そのものである。



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